It is only my thing now.


　不意に長い指が髪の中に差し入れられたかと思うと、クシャクシャと掻き混ぜていく。
　それはまた、容赦の無い手つきで。
　ワックスで固めている毛先が指に引っかかって、軽い痛みを何度か覚えた。

「ちょ…ちょっと、おい、何すんだよ！」

　突然のことに驚いたギップルは僅か身を引きながらパインの腕を掴んで制した。
　ジッと見詰めていたかと思ったら、いきなりの暴挙。
　一体何事なのかと訝しげもする。

　軽いキスを交わした後、ちょっとイイ雰囲気が漂っていたと思ったのに。

「別に？何となく」
　微苦笑を湛えた曖昧な回答の裏には絶対何かある。
　理由も無しに「何となく」なんて有り得ない。

「何なんだよ。一体…」

　既に元通りには戻らなくなった髪を手櫛で何度か撫で付けながら、ギップルは眉根を寄せて問いてみる。
　パインは悪びれた様子も無く、軽く肩を竦めただけだ。

「だから、何となくそうしたくなっただけ」

　どうやら突拍子も無い行動の意図を素直に話すつもりはないらしい。

「理由も無しに人の髪クシャクシャにするのかよ？」
「別に構わないだろ？もう部屋からは出ないんだし」
「そう言うことじゃなくてさ…」

　…もしもし？論点が噛み合っていませんけど？

　回答をかわす為に態とそうしているとしか思えない。
　思わず、溜息が突いて出た。
　その瞬間、緋色の瞳を軽く瞠って彼女は小首を傾げた。

「怒ったか？」
「別に怒っちゃいないけど…」

　ただ、その意味を知りたいだけだ。

「そう？良かった」
　
　所々無造作にはねているであろう髪を今度は優しい手つきで触れながら、パインは小さな笑みを浮かべた。
　この人は時々予想もしないような…読めない行動をするから困る。
　そして独りで勝手に楽しんで、こんな風に満足そうに微笑むのだ。

　彼女は更に鮮やかな瞳を愉しげに綻ばせて、ふふっ…と笑いを零す。

「…チョコボみたい」
「あのなあ…」

　…まさか、それが理由とは言わねえよな？


終


どんなに好き合っていても相手の全てが分かる訳じゃないんです。
Gratitude of applause6：200600915：サイトＵＰ20061108：sears