Memorandum ―― It will be a surely good day tomorrow.


 白い影がはらりと落ちた。

 足元に目をやると、そこにあったのは小さな紙切れ。
 手にした本を何気なくパラパラと送った拍子に現れたのだから、間に挟まっていたものなのだろう。
 栞代わりに入れられていたモノだろうか。

 拾い上げたそれは、ざらりとした肌合いの紙だった。
 皺が入った跡や何かの染みのようなものさえある。

 …何だろう?

 パインは淡い好奇心に誘われて、二つ折りにされていたメモを開いてみた。
 荒い紙目にインクが滲み走っている。
 視線を走らせるまでもないほどの短い言葉が綴られていた。

「……えっ?…」

 軽い衝撃が思考を突き抜け、無意識に小さな声が零れた。
 書かれていた内容に驚いたわけではない。

 決して綺麗とは言えない、癖の強い書体。
 更に不恰好に見えるのは書き慣れない文字を書いているせいだろう。
 拙いアルベド文字で綴られた一言。

 誰の手のものかなんて、考えなくても直ぐに分かった。
 私が、分からないはずがないのだ。

 いつどこで書かれたものなのか。
 その時に交わした言葉さえ。


 鮮明に思い出せる。


 洪水のように押し寄せて脳裏を流れ行く記憶。
 それ付随する感情が、懐かしさに入り混じり溢れ出す。
 溶け合いながら次第に熱量を上げ、胸の奥から咽び上がる。

 ぎこちなく口の端が上がり、目の前がじわりと霞んだ。
 面映いのか、切ないのか、よく分からない。

 知らず指先が紙の肌を撫でていた。
 何度も折り返しているらしく、折り目の部分が少し破れている。


「あの莫迦…」

 ただ出来たのは、小さな悪態をつくことだけ。





最終演習の前の日にパインが書いたモノを今でもギプが持っていた…なんてお話。
Gratitude of applause5:200600711:sears