What are your gifts?
依頼のシフトやメンバーのオフの日を共有の予定表に書き込んでいると、傍で覗き込んでいたリュックが不意に「あ、」と声をあげた。
「そう言えばもう直ぐギップルの誕生日じゃん。パイン、何あげるか決めたの？」
カモメ団の予定表にあの男の誕生日など書かれている訳もないのだが、流石は幼馴染みと言うところか。
しかし、どうしてこのタイミングで今一番触れて欲しくない話題を振ってくるのだ、とパインは思わず溜息を付きたくなった。
「何だって良いだろ？」
拒絶を込めてかなり素っ気なく答えたが、慣れっこのリュックはお構いなしだ。
「ふーん、まだなんだ」
オマケに言葉にしていない答えまで読まれている。
「男の人へのプレゼントってホント悩むよねぇ」
実際にかなり悩んだらしいユウナが溜息混じりに「女の子同士の場合とはちょっと違うし」と苦笑を零した。
確かに、ユウナやリュックへ贈るものならば想像もし易いし、考えることだって愉しい。
けれど、異性に…特に恋人に贈るとなるとちょっと身構えてしまう。
「そう言うユウナんは、この前のティーダの誕生日に何あげたの？」
「オーダーメイドのシャツっすよ。彼、最近…式典とかパーティーに出る機会が増えたから」
「オーダーって、浮気防止の仕掛けがあったりとか？」
「彼は浮気なんてしーまーせーんー」
リュックのからかいにユウナは頬を膨らませて反論する。
このまま話が反れていってくれないだろうかと半ば祈るように傍観していたが、振り向いた翡翠色の瞳に捉えられてしまう。
好奇心いっぱいの眼差しに耐え切れずにパインは指先で手繰り寄せたティーカップへと視線を落とした。
熱い視線は一対ではない。その隣りからも注がれている。顔を上げなくてもそれくらい分かる。
「で？パインは？決めてなくても候補はあるんでしょ？」
再び突っぱねたところでまた交わされるだけだと分かっているパインは渋々口を開いた。
「まぁ…全然考えてない訳じゃないけど…」
ギップルは気に入ったものならブランドに拘らないし、長く愛用するタイプだ。
実際、いつも持ち歩いているザックはところどころ擦り切れているし、オイルライターやスキットルはへこみや傷だらけになっている。
傍目からすれば買い替え時のように思えても、それらを贈ることは愛着のあるものを手放せと言っているに等しく思えて、どうも憚れるのだ。
色々と考えてはみるけれど、どれもイマイチ決定打に欠けて最後に残るのは溜息ばかり。
「あーあ、眉間に皺が寄ってるよ」
「かなり悩んでますねぇ」
「カレシへのプレゼントって言ったらやっぱり、自分にリボン結んで…」
「却下」
おぞましい話になりそうだったのを終いまで言わせずにピシャリと跳ね除けると、リュックは「あれ？」と小首を傾げた。
「もうその手は使っちゃった？」
「やる訳ないだろ？第一、そんなことしたら何されるか分かったもんじゃ…な……」
パインは不意に自分が何を口走っているのか気が付いて慌てて口を噤んだが、既に遅い。
頬が赤く染まっていく様を眺めながらリュックはニヤニヤと笑みを浮かべている。
「ギップル、すんごく喜ぶと思うけどなあ」
「絶対にヤダ」
あの男が喜ぼうが舞い踊ろうが関係ない。
男なら一度は夢見る…らしい、性質の悪い妄想の産物なんかに付き合うつもりなど毛頭ない。
「ねぇ、リュック。それはちょっと…ダメなんじゃない？」
想像だけで悪寒を覚えていたところに、ユウナが口を挟んだ。
味方が増えたことにパインは内心安堵する。
流石に大召喚士様は良識的な考えをお持ちらしい。
リュックの方はユウナもノリで賛同してくれるものだと思っていたのか、反対意見に不満そうだ。
「えぇ〜何で？」
「え？だって…」
色違いの瞳がきょとんと瞠る。何でそんなことを訊くんだろうとばかりに。
「…パインはもうギップルさんの…でしょう？」
思考が止まったのはパインだけではなく、リュックも呆気にとられた顔でマジマジとユウナを見つめていた。
「………は？」
「………あー、それもそうだね」
暫しの沈黙の後、間の抜けた声と、些か棒読みじみた声が殆ど同時に洩れた。
終
ガールズトーク。
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