When it rains, I can realize that there is it together


　抱えた温もりが小さく震えた。

　体が冷えたせいではなく忍び笑いによるものだと気が付いて、ギップルは腕の中を窺った。　
　静かな呼吸を繰り返していたから既にまどろんでいるとばかり思っていたのだが、まだ起きていたらしい。

「どうした？」

　問いかけるとパインはゆるりと頭を動かして瞳を合わせてくる。
　そしてまた、小さく笑った。

「雨の音…」

　囁くような答えに意識を傾けて耳を澄ませば確かに聞こえる。
　幾多の雫が窓を掻いている音が。
　地に張った水膜を叩く音が。
　いつの間に降り出したのだろう。

　二人の逢瀬には何故か雨が付きまとう。
　今回もそうであったことが可笑しいのだろうか。

「いつものことだろ？」
　今更だろうと半ば諦め口調で零すと、面差しに湛えた笑みが深くなった。

「そうだね」
「雨が降ってるのが可笑しいのか？」
「嬉しいの、かも」

　彼女がそんな風に言うのを初めて聞いた気がする。
　毎度毎度、雨男のせいだと不満めいたことを言うくせに。
　今がもう眠りの細波が寄せてくるのを待つだけの時間だからだろうか。

「雨がか？」
「そっ、雨が」
「何で？」


　彼女は微笑む。

　ひそやかに楽しんでいるかのように。
　ほのかな幸せに浸っているかのように。


　パインは答えを口にしないままに頭を少し動かして一番居心地の良い場所を探ると、静かに瞼を落としていく。

「…教えてくれねえの？」

　催促をしてみても答えは返ってこない。
　いつものようにはぐらかすつもりなのだろう。
　込み上げた諦めを吐き出すように、ギップルは軽く溜息を零した。

　抱え直した腕の中の温もりが、また小さく震える。

　摺り寄るように彼女が顔を埋めた鎖骨の辺りに吐息が触れた。
　微かな大気の振動が声と成って静かな雨音の中に溶けていく。

　肌から滲み込んだ囁きはくすぐったさを生み、やがて愛おしさに変わる。
　思わず綻んだ唇を同意の込めてさらさらとした髪に寄せると、俺はゆるりと目を閉じた。

　聞こえるのは彼女の静かな呼吸と、窓の向こうの雨垂れの音。


終


わたしがここにいて、あなたもここにいる。そして雨が降る。
Gratitude of applause17：20080528：サイトＵＰ20080626：sears