Even if I cannot fly together


　温みを増した陽射しが降り注ぎ、やわらかな風が頬に触れてすり抜けていく。
　冬の間くすんだ色に囚われていたナギ平原が彩を取り戻していく。
　スピラで一番遅い春が漸くやってきたのだ。

「…暖かくなったな」

　自然と笑みを刻んだ唇から間延びした独り言が零れる。
　バラライは脱いだ靴を転がすと、襟元を緩め、草の上に仰向けに倒れ込んだ。

　目の前に広がるのは色濃くなった青い空。
　淡く浮かぶ雲が姿を変えながら流れていく。
　さわさわと葉擦れの音が優しく耳元を擽った。

　気晴らしに街を歩こうかと出てきたけれど、ふと思いついて逆方向へと足を向けた。
　ひとりになりたかったのかもしれない。
　見た目だけは綺麗な箱庭から抜け出したかったのかもしれない。
　決してあの場所にいることが嫌になったわけではないけれど。

「やっぱり、ちょっと疲れてるのかな」
　込み上げた自嘲を口の端に刷いて独りごちてみる。

　目を閉じて、瞼の向こうに降る光の白さを見た。
　緑芽吹く土の匂いがする。風が優しく髪を撫でる。
　少し離れたところで鳥が囀っている声が耳に心地良い。

　ゆっくりと大気を胸いっぱいに吸い込み、そして同じように吐き出した。
　不意に過ぎった書類の文字列を頭から追い出して、思考を解き解す。

　大地に、風に、光に身を委ねる。
　いつの頃からか忘れていた感覚だった。


　どれくらいの時が流れたのだろう。
　耳に届いたのは、時を告げるベベルの街の鐘の音。
　既に慣れた刻の音色なのに違う響きとなって遠く聞こえる。

　一つ、二つと…ぼんやりと数えていると、低い唸りが薄い膜のように平原に広がり始めた。
　何の音なのか直ぐに分かったから、身を起こして頭上を見回ししてみる。

　そして、見つけた。

　青く澄んだ空を飛ぶ赤い鳥を。

　陽の煌めきを纏う、このスピラに二つとない赤い鳥。
　久し振りに目にした姿に良いことが起こる前触れだろうかと躍る。

　いや、違うな…と思い直して、バラライは小さく笑った。

　この光景を観ることが出来ただけでも喜ばしいことなのだ。
　目の前に舞い降りてくれたならもっと嬉しいけれど、今日は羽を休めていく気は無いらしい。

　自由に飛ぶ様が羨ましく思うこともある。
　だけど、地にあればこそ、その姿を眺めることが出来るのだから。

　たとえ共に飛べなくとも……



　赤い鳥が渡った空は更に色を濃く成していた。


終


議長にとっては、赤い鳥≠カモメ団なのです（笑）
Gratitude of applause16：20080507：サイトＵＰ20080528：sears