Confeito


「…一番星」

　不意に彼女は宙へと手を掲げ、そう呟いた。
　その声に誘われて、先程まで彼女が見上げていた方へと視線を向けてみる。
　けれど、まだ茜に染まっている空にそれらしい瞬きは見えない。

「え？どこ？」

　問いてみると、彼女はクスクスと愉しそうに笑って答えた。

「私が取ってしまったからもう見えないよ」
「はい？」

　子供でも引っかからないような戯言だ。

　からかっているのか？と怪訝を抱きながら隣りを窺ってみる。
　悪戯っぽく微笑む緋色の瞳とかち合い、僅か近づいた。

　唇に触れた指先。
　歯に何かが当ってカラッ…と聞こえた軽い音。
　口の中に何かを入れられたのだと分かった。

　舌で転がしてみると、小さな小さな塊からほんのりと甘さ。
　でも飴玉とは違う舌触りだ。
　軽く歯を当てるとシャリッと音を立て、脆くも崩れる。

　途端に口の中に広がる味は…

「これ、砂糖菓子か？」
「一番星だってば」

　彼女はくすぐったそうに笑って、つい…と視線を逸らす。
　今になって気恥ずかしくなったのだろう。
　どこでこんな可愛らしいことを覚えたのだか。


「じゃあ、俺は流れ星でも拾ってみるかな」


終


甘いだけのお話。金平糖を頂いたもので…（汗）
Gratitude of applause10：20070304：サイトＵＰ20070328：sears