What you regained


　近づいてきた足音に、思わず溜息が突いて出た。
　もう少し粘れると思っていたのだが、どうやら時間切れのようだ。
　今日の被害者は誰だったかと振り返ると、こちらを見詰めた赤い瞳が目の前の光景を確認するかのように幾度か瞬いていた。


「ちょっと意外…」
　直ぐ傍までやってきた彼女は、波止場に腰を下ろしながら苦笑交じりにそう零した。
「そうか？」
　糸を垂らしてからぴくりとも動かない竿を片手に曖昧に問い返す。

「何が釣れるの？」
「さあな…」

　凪いだ海は海底まで見通せそうなくらいに透明で、今日も当たりが見込めそうにない。

「さっき行ったら、ベクレムの眉間に皺が寄ってたけど？」
「放っておけ。いつもの事だ」
「暢気な盟主だな」

　呆れたような呟きの後、ややあって彼女は小さく笑ったようだった。
　それに誘われてちらりと窺うと、緋色の瞳がやわらかく、それでいて悪戯っぽく…綻んでいた。

「…ベクレムにも釣り…教えてあげたら？」


終


突発的にヌジとパインの話が書きたくなります。
Gratitude of applause9：20070108：サイトUP20070304：sears